『正欲』を読んで考える、理解できない他者との距離

理解できない人を、理解できないまま尊重する。『正欲』を読んで、僕が大切にしたいと思ったのは、この距離感です。

共感できないからといって、否定していいわけではない。でも、実際に自分と違う人を前にすると、そう簡単にはいかない。

僕は朝井リョウが好きです。読み終わって気持ちよくなるというより、自分の中の「正しさ」が少し怪しくなる。そんな読後感が、長く残ります。

※核心や結末のネタバレはありません。

自分の違いには理由がある。他人の違いには?

僕はルールを守ることを大切にしています。

10時の約束に連絡もなく30分遅れてきたら、腹が立つ。誰かの確認漏れで、別の人に1時間の残業が発生したら、それも気になります。

ただ、その感覚の延長で、人の生き方まで採点していないか。

大人数の集まりが好き。恋愛の話で盛り上がれる。仕事では出世を目指す。

そんな姿を、無意識に「普通」の見本にしていたかもしれません。

僕自身、大人数の場は得意ではありません。一人で本を読む休日でも十分楽しい。それを「寂しくないの?」と言われたら、余計なお世話だと思うはずです。

なのに、自分にはわからない生き方を見ると「どうして?」と説明を求めたくなる。

自分の違いは認めてほしいのに、他人の違いには納得できる理由が欲しい。

『正欲』を読んで、この身勝手さを考えました。

「わかるよ」と言えない人にも、暮らしがある

一人旅が好きな人や、出世を望まない人には、僕は比較的すんなり共感できます。自分でも想像できるからです。

でも、説明されても気持ちがわからない相手には?

そこで態度が変わるなら、僕が受け入れていたのは、自分に理解できる範囲だけだったのかもしれません。

例えば、会社の昼休みに「子どもは考えているの?」と聞く。

聞いた側には10秒の雑談でも、答える側には10秒で話せない事情があるかもしれない。

相手が話さない理由を、全部知る必要はない。僕に納得してもらうために、その人が生きているわけではないからです。

仲良くならなくても、尊重はできる

もちろん、人を傷つける行為や、同意を無視する行為には線を引く必要があります。

ただ、「自分には理解できない」と「誰かを傷つけている」は、分けて考えたい。

職場で雑談をしない人でも、必要な連絡をして仕事を進めているなら、それでいい。

飲み会を3回断られたら、4回目は誘わず、普段どおり接する。それも一つの配慮だと思います。

僕も、週5日働いて収入を増やすより、週3日働いて自由な時間を持つ暮らしに惹かれます。

「まだ若いのにもったいない」と言われても、僕にとっては欲しい生活です。

もちろん、この選択と、作品で描かれる切実な孤独は同じではありません。それでも、自分の物差しだけで人の人生を決めない、という姿勢は持ち帰りたい。

本を1冊読んだだけで、心の広い人にはなれないと思います。

だからまず、「変だな」と思った瞬間に結論を出さない。聞かなくていいことは、無理に聞かない。

わからないことは、まだある。だからこそ、わからないまま乱暴に扱わずにいたい。

朝井リョウの作品を読むと、僕は自分の言葉を少し慎重に選びたくなります。

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